弁護団声明を発表しました

今月15日、NHK・EテレのETV特集で「誰のための司法か~團藤重光 最高裁・事件ノート~」という番組が放送されました。
団藤重光最高裁判事(元東京大学教授で刑事法学の権威)が遺した大阪国際空港訴訟に関するノートから、1981(昭和56)年12月の最高裁大法廷判決の裏で、最高裁長官OBの介入により、もともと第一小法廷で審理を終えていた大阪空港訴訟を大法廷に回付させ、原告住民の逆転敗訴(過去分の賠償のみ認容)判決に至った経緯があったことが明らかになったというものです。
人権救済の砦である最高裁をはじめとする裁判所が、外部の介入によって歪められることは断じて見過ごすことはできません。
横田基地公害訴訟は、大阪国際空港訴訟にならって1976(昭和51)年に提訴されたもので、民間機が発着する国営空港と、軍用機が発着する軍用空港という違いはありますが、縁浅からぬ事件です。
大阪国際空港訴訟大法廷判決が、基地爆音訴訟にもたらした影響ははかりしれません。
そこで、弁護団は、軍用基地の爆音訴訟をたたかう全国の弁護団と共同して、以下のとおり声明を発表しました。


司法への介入を許さず、
正統性を欠く大阪空港最高裁大法廷判決の見直しを求める声明

2023年(令和5年)4月28日

全国基地爆音訴訟弁護団連絡会     
第7次小松基地爆音訴訟弁護団
第3次新横田基地公害訴訟弁護団
横田基地公害訴訟弁護団
第五次厚木基地爆音訴訟弁護団
第2次岩国基地爆音訴訟弁護団
新田原基地爆音訴訟弁護団
第3次普天間基地爆音訴訟弁護団
第4次嘉手納基地爆音差止訴訟弁護団

 戦後刑事法学界の第一人者である東京大学名誉教授の團藤重光氏が、最高裁裁判官在職中に担当した「大阪空港公害訴訟」の最高裁判決に至る過程において、法務省の意向を受けた元最高裁長官が判決前に介入したとノートに記していたことが判明した。
 大阪空港公害訴訟は、1969年、騒音に苦しむ大阪空港の周辺住民らが航空機の夜間飛行差止めなどを求めて国を訴えた訴訟である。1974年から1975年の1審、2審判決はいずれも飛行差止めを命じたが、国が上告し、最高裁第一小法廷に係属した。
 團藤氏が所属した第一小法廷は、1978年3月の段階で「一応の結論」として、差止めを認めた2審判決を維持する方向を確認し、1978年5月に結審した。
 しかし、その後、本訴訟は異例の経過をたどった。国が最高裁の裁判官全員による大法廷での審理を求める上申書を提出した翌日、元最高裁長官である村上朝一氏から岡原昌男長官室に大法廷回付を求める電話がなされ、これらを契機として同訴訟は大法廷に回付された。團藤氏は、長官室で村上元長官の電話を受けた岸上康夫裁判官の話として詳細をノートに記しており、「法務省側の意を受けた村上氏が大法廷回付の要望をされた由。(この種の介入は怪(け)しからぬことだ)」と憤りを表している。その後、大法廷の審理は1979年11月に結審したが、1980年4月、服部高顯最高裁長官は4人の裁判官の交代を理由に審理のやり直しを決めた。新たに内閣が任命した4人の裁判官はいずれも飛行差止めを否定する立場であり、新たな裁判官の任命により、團藤氏ら差止請求容認派は少数派となった。
 最高裁元長官による介入と内閣による最高裁裁判官の人事を契機とした二度の審理再開という異例の経過を経て、1981年の最高裁大法廷判決(以下「1981年最高裁判決」)は、差止請求を不適法として却下し、この点については住民側の逆転敗訴となった。
 小松基地訴訟が1975年、横田基地訴訟と厚木基地訴訟が1976年に提訴されるなど、当時、日本全国で基地の騒音被害に苦しむ住民が飛行差止め等を求めて訴訟を提起していた。團藤氏のノートを研究した福島至龍谷大学名誉教授は、介入の目的について、当時は公害が大きな社会問題となり、国の責任が追及される中、最高裁判所が差止請求を認容した場合の他の訴訟への波及効果を懸念したのだろうと述べている。こうした最高裁の対応は、米軍を慮る当時の自民党政権の意向を忖度したものと言わざるを得ない。
 訴訟と無関係の元長官による外部からの介入は司法の独立を侵害するものにほかならない。このような介入は断じて許されないものであり、当弁護団連絡会は、これを厳しく批判する。
 まして、1981年最高裁判決は、その後の空港や基地の騒音被害に苦しむ住民が提起した同種の訴訟において、差止請求については却下・棄却するという、住民の被害防止よりも行政を優先する判決の流れを決定づけたものであり、空港や基地の騒音訴訟に与えた影響は甚大である。同判決が不当な介入によって歪められたものであったことが明らかになった今、もはや同判決の差止請求についての判断部分には、判例としての正統性はない。
 当弁護団連絡会は、裁判所に対し、1981年最高裁判決の徹底的検証と検証結果の公表を要請するとともに、司法に対する政治介入を含むあらゆる介入を許さず、航空機騒音に苦しむ住民の声に真摯に耳を傾け、航空機の飛行差止について1981年最高裁判決に拘束されることなく、真の救済を図るべく差止請求を排斥してきたこれまでの判断を抜本的に見直し、人権の砦たる司法の役割を果たすことを強く求めるものである。

以上
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